路地裏の狐

空気を切り裂くように、甲高い音を一瞬だけ立てて、6本の銃身が回転する。
そして、次の瞬間には雷鳴のような轟音と共に7.62mmの弾丸が撒き散らされる。
荒れ果てた地面を、枯れ木を、そして、敵を。
乱暴に耕し、無数の弾痕を穿ち、その形を喰いちぎっていく。

『何者も存在することを許さない。』

そんな意思すら感じさせる、断固たる猛射。

「Eraser　HMZ Model560」。

とうとう手に入れた、俺の夢の―――いや。ヨクボウの、形。

途切れることなく続く銃声とマズルフラッシュ。
轟音と閃光。それを見ているうちに、意識が白く染まっていく。
この感覚はヤバイ。MINIMIを振り回していた時も似たような感覚に陥ったが、
こいつはそれを軽々と上回る。
廃村の風景が見る見る白く塗り潰される。
俺の目にはもう、十数匹にもなろうかと言う蛾の群れしか映らない。

『アレは的だ』

不意に、頭の奥で声がしたような気がした。
声は言う。ひどく楽しげに。
まるで、狂っているかのように。

『撃ち抜かれ、撃ち落される。そのために存在する的だ』

声に導かれるように、銃口を群れを成した蛾に向ける。
流れるように吐き出される弾丸が、蛾の群れを切り裂いていく。
一匹、また一匹と、蛾がボロ屑のように引き裂かれて、墜ちる。

『引き金を引け。的は撃ち抜け。一つ残らず、撃ち落せ』

声に言われるがまま、引き金を引き続ける。
MINIMIを軽く上回る反動もまるで苦にならない。
『的』。その存在を消し去って行く、この快感の前では。

『目の前に立ち塞がる全て。その存在を』

笑いがこみ上げる。
とてもじゃないが、抑えきれない。いや、抑える必要もない。
楽しい。とても楽しい。とてもとても楽しい。
俺は笑いの衝動をあっさりと解き放つ。
馬鹿笑いをしながら、引き金を引き続け、銃口を振り回す。

「欠片も残さず、消し去ってやらぁっ！！」

その言葉を言ったのは、頭の中の声なのか、それとも俺自身なのか。
今はもう、それすら分からない。
理解できるのは、今の俺がイカれていると言うこと。
そして、目の前にはまだ『的』がある。

ただ、それだけだ。

狂喜に身を任せて、俺はただただ笑い、そして引き金を引き続ける。

不意に聞こえた風の音で、俺は我に返った。
全身にまとわり付くような疲労感。痺れて感覚のなくなった腕。
足元に積まれた空薬莢の山。
そして、辺りに満ちた静寂。

俺はその中でただぼうっと突っ立っていた。
狂喜と狂気。そして、狂騒に満ちた時間はどうやら終わったらしい。
時間にしてみれば、多分３分前後ってトコだろう。

……イカれてるぜ。我ながら。

ついさっきまで身を委ねていた狂喜の感情を思い出して、苦笑する。

今に始まったことじゃねぇが、やっぱり俺は根っからの乱射魔だ。
いくら火力が高くても、撃ちまくれなきゃ満足は出来ないらしい。

萎えた腕、だがそれでも握り締めて離さない新しい得物を見て笑い、
視線を蛾の群れが占拠していた木立に向ける。
そこには、今までそんなものがいたと言う痕跡は一欠けらも残っていなかった。

まるで、拭い去られたように。

それを確認して、視線をもう一度手にした得物。Eraserに落す。

……なら、コイツはそんな俺にピッタリの得物ってわけだ。

ニヤリと物騒に笑い、俺は走り出す。
……まだまだ物足りねぇ。
もっともっと、楽しませてもらおうじゃねぇか！