路地裏の狐

• 04/24/23:15

--行動報告書　No.24 　2004/新宿　日比谷公園--

　

　細い橋の上で、俺は奴と対峙した。

　クローラーマスター。
　その皮膚装甲は、生半可な弾丸なぞ容易く跳ね返し、
　振り下ろす豪腕は、ひ弱な人間を一撃で挽肉に変える。
　その体内で生成される毒ガスは僅かに吸い込んだだけで、
　人の意識を刈り取り、死に至らしめる。

　ここ、日比谷公園で最も手強い変異体。
　そいつが、脱出ルート上の橋で俺を待ち構えていた。
　ルートを変更するのは無理だ。物資が底を尽き掛けている。
　弾も無けりゃあ、食い物もねぇときた。

　クソッタレ。
　補給に戻ろうと思ったらこれかよ。ツイてねぇ。　

　奴が大きく息を吸い込んだ。毒ガスを吐く兆候だ。
　どうやら、舌打ちする暇もくれないつもりらしい。
　俺は歯を食いしばり、狩りに疲れた足に力を込めた。
　タイミングは掴んでる。ガスの先端が俺に触れる瞬間が、勝負。
　一瞬でも遅れれば直撃。病院への緊急搬送、間違いなしだ。

　奴が口を開いた。その奥から、真っ黒い何かが吐き出される。
　吐き出された何かは、そのまま霧状に拡散し、辺りを覆いつくす。
　漆黒の霧が、奴と俺との間を遮った。

　今だ！

　俺は全力で跳んだ。
　一瞬前まで俺が立っていた場所に、黒い霧が降り注ぐ。
　だが、俺までは届かない。俺は口元を吊り上げた。

　霧が晴れるまで、奴は俺を見つけられない。
　自分の攻撃が仇になるってヤツだ。
　俺は笑いを浮かべたまま、霧の向こう側に向けて引き金を引いた。
　攻撃の前と後、奴らは必ず動きを止める。
　見えなくても、あの霧の向こうに奴はいる。

　猛然と吐き出される、徹甲弾の雨。
　霧を突き破って降り注ぐそれは、確かに奴を捕らえているようだ。
　怒りと苦痛の入り混じった、くぐもった叫びが聞こえてくる。
　それを聞きながら、俺は引き金を引き続けた。
　フルオートの反動で暴れるＲＰＫｓを、無理やり押さえ込む。
　徹甲弾の残りは少ねぇ。無駄弾は命取りになる。

　折角いい稼ぎが出てんだ。緊急搬送なんてケチ、つけてたまるかよ。
　手前をぶっ倒して、橋は渡らせてもらうぜ！

• 01/30/01:50
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